ヤバい男を見つけたかもしれない。「長澤知之 - P.S.S.O.S.」

先日リリースされた秦基博の1stアルバム「コントラスト」をなんとなく聴き込みつつ、なんとなくオフィスオーガスタのサイトをふらつき、なんとなくクリックした、長澤知之という男のPVがひとつ。
「なんとなく」の気分が吹き飛んだ。
こいつは、やばいものを見つけてしまった。
長澤知之 - P.S.S.O.S. PVフル試聴
イントロ。単調なリズムを叩くドラムに続き、民謡や沖縄を思わせるメロディでエレキが入る。映像は真っ白な部屋へフェード。部屋の中央で、タイプライターに向かう長澤知之が映し出される。歌い出し。

拝啓 元気にしてますか 僕は元気にしてますよ
近頃あまり会えませんね 別にどうでもいいですか

あなたにこの手紙をしたためても あなたに届きはしない
ダイアリー ダイアリー 僕は今日も雨でした

抑揚のない、平坦に語るように歌う冒頭の2フレーズ。対し、裏声で自身の暗い内面を吐くように強く歌い上げる3フレーズ目、4フレーズ目。

あれから変わりありませんか 僕は変わりませんよ
なんにも成長してないし まだあの頃のままですよ

変わってゆくのはこの世界だけで 僕は残されたんだ
ダイアリー ダイアリー 僕の妄想的ポスト

サビへ。カメラは単調に叩かれ続けるタイプライターを映し出す。吐き出される紙の上には、無数に繋がる「P.S.S.O.S.」の文字。叫び。

こちら 桃源郷より 桃源郷へ
P.S.S.O.S.

僕からどんなに望んだところで この病は治らない
ダイアリー ダイアリー ぼくは治りませんでした

ねぇ 聞こえてるかい 知ってるかい

間奏。不思議なポーズをとりながらギターをかき鳴らす。バンドメンバーは黒いシルエット。激しいヘッドバンギング

カメラが引き、長澤知之の顔、正面へ。2番。

こういうお国柄ですんで 不自由は致しませんが
そういう言葉を簡単に 使うことができませんで

それは 会いたいですとか 抱きたいですとか
信じてるですとか 愛してるですとか

あなたのことを延々と書いても あなたに届きはしない
ダイアリー ダイアリー 僕の妄想的ポスト

無造作に床に捨てられた、「P.S.S.O.S.」で埋め尽くされた紙の山。かっと目を見開く印象的なカットをはさみ、サビへ。再びバンド全景を映す。

こちら 桃源郷より 桃源郷へ
P.S.S.O.S.

この考えが終わらない限り この家は<<聞き取れず>>
ダイアリー ダイアリー 僕は泣けばいいですか

こちら 桃源郷より 桃源郷へ… (P.S.S.O.S.…)

重ねて流される「桃源郷より」と「P.S.S.O.S.」のリフレイン。ギターをかき鳴らす長澤知之に被せられる、蓮華の花。ふたつのリフレインの重なりが、読経のようにも聞こえてくる。

リフレインの終わりと共に、再びタイプライターに向かう彼が映し出される。一心不乱にタイプを続ける長澤知之。強いエコーの間から僅かに聴き取れるその言葉は、「僕は、治りませんでした。」

完。
数度聴いてからやっとわかったが、P.S.S.O.S.とは「P.S. (追伸) S.O.S. (助けて)」の意か。
10/3発売となる2ndミニアルバム(asin:B000U5HW5Q)の標題ともなっているリード曲ということだが、いやほんと、やばい。狂ってる、という形容が一番しっくり来る。この曲は狂ってる、狂ってる。しかし、何度もリピートしてしまう魅力…なんだろう、この魅力は。ハマりたくない。でも、何度も何度も聴いている。
これほどパワフルな――そう、悲壮と絶望の中に、暴力的なパワフルさがあるのだ――曲を聴いたのは久しぶりだ。たった一曲。アルバムの一曲目でここまでのパワーをぶつけ、彼の世界をこれでもかと見せつけ、殴りつけてくるアーティストというのは…ヤバい。やはり、なにか狂っているとしか。
ああ、そうだ。これは、「昴」を読んだ時の衝撃に似てる。絶望感とか、悲壮感とか、そうそう。似てるね。常に限界を超えたパワーをぶつけながら生き、命の灯をマグネシウムの如く燃やしているような、そんな印象。
僕は、もっとゆっくり生きますけど、ね。