『金がないなら結婚するな』を正しく要約し直してみよう

さてその『金がないなら結婚するな』の件ですが、実際の発言の全内容が音声ファイルで公開されるという珍しい展開になったようです。まさか完璧な一次ソースが出てくるとは。状況が掴めない方は麻生失言について推論している内にオリジナルが公開されてしまったのだけど、まあ、私の推論はこうでした。 - finalventの日記の冒頭に各社の報道内容がさくっとまとまってますのでそちらを。

テープ起こしをされた方がいらっしゃるので一応テキスト引用しておきますね。質問は音声に含まれていませんが*1、おおよそ『結婚資金が確保できない若者が多く、結婚の遅れが少子化につながっているのではないか?』といった内容だったようです。対する麻生氏の回答は以下の通り。

でぇ3つ目。立教大学、結婚。えー、金がねーから結婚できねーとかいう話なんだけど。そりゃ金がねーで結婚はしねぇほうがええんで、わーるね? (会場 笑) そりゃ俺もそう思う。あー、そりゃあ迂闊にそんなこたぁしない方がいい。でー、金がぁ俺は、ないほうじゃなかった。だけど結婚は遅かったから、俺は43まで結婚してないからね。だから、あのー早い、(金が)あるからする、ないからしないー、ってもんでもない。こらぁ人それぞれ、だと思うから。だから、こらぁ、迂闊にはいえないところだと思うけれども、ある程度生活をしていく いけるというものがないと、やっぱり自信がない。で、女性からみても、旦那を見てやっぱり尊敬するところ、やっぱりしっかり働いているってか尊敬の対象となる、日本では、日本ではね。従って、きちっとした仕事を持って、きちっとした稼ぎをやってる、ということがぁ、やっぱり結婚して女性が、生活をずっとしていくに当たって、相手の、男性から女性に対する、女性から男性に対する、両方だよ、両方がやっぱり尊敬の念が持てるか持てないかというのはすごく大きいと思うね。そいで稼ぎが全然なくて、尊敬の対象になるかというと、よほど、何かないとなかなか難しいんじゃないかという感じがするんで、稼げるようになった上で結婚した方がいいというのは俺も全くそう思う。

首相「金ないのに結婚するな」テープ起こし - 雑種路線でいこう

どう思われました?

いや、もう、言うまでもないでしょ?これ、どう要約したって『金がないなら結婚するな』にはならないでしょ!いくらなんでもそりゃないよ。一番キツいとこでも『しねぇほうがええ』ですよ?誰が「するな」と命令しましたか??俺が要約するならこうするね!

「結婚生活にはお互いを尊敬し合う心が必要であり、多くの場合、尊敬を得るためには稼ぎが必要だろう。」

何度でも原文と照らし合わせてみてください。どうでしょう。おかしな要約になってないでしょうか?これが質問に対しての回答だと考えるから混乱しますが、純粋に文章を整理してみればどうやら「結婚には尊敬の念が必要だ」ってのが軸ですよね。そこから逆に進んでいって、

  1. 結婚にはお互いの「尊敬」が必要だ
  2. だが、「稼ぎ」なくして「尊敬」を築くのは難しい
  3. よって、結婚には「稼ぎ」が必要だろう

という論法。これを踏まえて『金がないなら結婚するな』と要約したら、5点満点で何点あげますか?僕が国語教師だったら、配点は次のような感じにしますかね。

  • キーワードを捉えているか … 「結婚」「尊敬」「稼ぎ(収入,金)」 [各1点、計3点]
  • 全体の文意が正しいか … 3つのワードの関係性が正確に示されていること [2点]

これに沿って採点すると、「金」「結婚」の2ワードを捉えているので2点、文意は完全に損ねている(原文では強制・断定はしていない/キーワードの関係性の取り違え)ので0点。計、2点。

新聞の見出しにはまだ長いですが、これ以上の要約はちょっと。せめて「金がないのに結婚するのはやめた方がいい」ならなんとか許せますが、「尊敬」がこの話の主軸ですから。尊敬で繋がる絆って理想だよねいい話だよね、でも尊敬されるにはやっぱりお金って必要なんだよね仕方ないさ!っていう、非情な現実を客観的に話してるからおもしろい。それでいて、でもやっぱりお金を超えたなにかを持ってる二人もたまーにいるんだよね!といって幻想を幻想と切り捨てずに残してくれてるから、あらやだ麻生ちゃんてば意外とロマンチストなのね☆っていう意外性狙いのおもしろさもキープしている。この話のキモですよ。やっぱり「尊敬」外せません。4点。

結局何が言いたいの

こんなに頑張って要約したのに…これ、単なる「麻生おじさんの結婚観トークじゃないですか!なんてこった!!

…でもね。僕思うんですよ。これ、まず質問がふざけてると思うのよ。もう一度載せますよ。『結婚資金が確保できない若者が多く、結婚の遅れが少子化につながっているのではないか?』…それ、なんで首相に聞いてるんですか?そんなこと自分で調べろ!大学生だろ!!大体、YES/NOクエスチョンっておかしいでしょ!?マトモな大学生がちゃんと質問するなら、こうなるでしょう。

「(私の調べたところによれば、)結婚資金が確保できない若者が多いため晩婚化が進み、それが少子化の要因となっています。この問題の改善について、どのようにお考えでしょうか?」

自らの導き出した仮説について、どのように考えるかを広く問う。素晴らしいじゃないですか。でも、まだ明確じゃない。首相に、麻生という人物に聞かなければならない理由がない。ズバリ聞くなら少子化対策担当大臣小渕優子でしょう。…いや、ごめんなさい、わかってるんです。本当に彼が言いたかったのはこうなんですよね。

不景気のせいで結婚資金が確保できない若者が多く、結婚の遅れが少子化につながっているのではないか?不景気早くなんとかしてください。

麻生氏が首相に就任して以来、常に景気対策問題は付きまとっていました。今回の選挙においても、景気対策というのは一応主要な争点の一つであるようです。この質問であれば、あえて麻生氏に問う理由は明確でしょう。これを質問と呼ぶかどうかは知りませんけど。

ただ、重要なことに、麻生氏は自らが的確な景気対策を打ち続けてきたことを自負しています。崖っぷちの就任以来、景気対策を主軸にやる、景気対策が先で解散は後だ、そう言い続けてきました。そしてここへ来て、実際に実質GDPがプラス成長に転換という結果を出すことができた。ギリギリまで解散を持ちこたえた結果、単なる自負で済まさず、数字というベストな結果を見せることができたのです。

その状況下で、不景気について問われた。馬鹿正直に答えるなら、「景気は回復しています」としか言いようがないでしょう。

しかしそうは答えなかった。一見とんちんかんにも見える"酒場のオッサンのおもしろい話"が飛び出したのは、オッサ……麻生氏が大学生をバカにしていなかったからではないかと思います。だって、数字が出ていて改善が大きく報道されたことについて、改めて不景気なんとかしてくださいって。そんなバカこと言い出すかいな勉強熱心で優秀な学生諸君が!

…というのは麻生寄りすぎる解釈だというのは自覚しています。ま、変な質問ですよねってことだけ、ね。

ところで、不景気と少子化の関連について

自分で調べろ!と言った手前、軽くググってみましたら少子化問題を考えるというサイトが出て参りました。4年前の物ですが、今でもだいたい参考になりそうです。

# 米国の出生力の変動が約20年周期で循環する(クズネッツ循環)ことに気づいた R.A.Easterlin の相対所得価値仮説(所得獲得能力が生活水準に対する嗜好に対し大きい世代が出生力高い)は、1985年以降の米国での出生率上昇(白人女性のベビーブーマが第3,4子を出産/ベビーバスト・コウホートの婚外出生率の上昇)と90年代の好景気下の出生率上昇幅の小ささを説明できない。
# 女性の就業化が晩婚化を招いたという仮説も誤り。産業革命期初期の状況に反する。またベビーブームは女子労働力率の上昇中に生じた。逆に女性の就業化が早婚化を招くとする仮説もある(Goode の持参金効果説)。好景気は結婚を促進し、不景気は結婚を抑制する。専業主婦より就労女性の方が出生児数が多い。相反する2つの仮説は、「男女共同参画社会により出生力が向上する」という観点で統合される。しかしフィンランドの事例より、子育て支援の推進は結婚と出産のタイミングを早めるが、長期的に出生数自体を増やすのは困難。

少子化問題を考える

日本で未婚化・晩婚化が進む要因は明らかでない。未婚・晩婚の理由は調査されていますが、昔からその内容には大きな変化がない。近年、ドイツ、イタリアの出生率は上昇に転じていますが、福祉政策に大きな変化はありません。

少子化問題を考える

勉強になりました。

最後にどうしても一つだけ

 首相の発言は一定の生活力が必要との趣旨ともとれるが、学生からは賛同の拍手などは一切起こらず、それどころか、会場全体が一瞬、凍りついたような雰囲気。不況の影響で就職先がなかったり、ワーキングプア状態にある若者たちに対する配慮を欠いた発言との批判を呼びそうだ。

麻生首相「金がないなら結婚するな」発言(社会) ― スポニチ Sponichi Annex ニュース

真意を正確に読み取っておきながらそれ以外の部分でめちゃくちゃ書いてねじ曲げた上『批判を呼びそうだ』で記事にしてるスポニチは今すぐ首がもげればいい。

あと、麻生を擁護したいからってしれっと嘘を流す人も同じくどうしようもないね。

*1:冒頭で『3つ目』と言っているということは、まとめて質問されたものを後から一つずつ回答しているか、あるいは質問は事前に応募されたものをレジュメで配布したのかもしれませんね。どちらにせよ音声に含まれていないのは(残念ですが)仕方ないかな、と思います。