PS2互換は諦めろ

そろそろPS3 Slimについて言っておくか的なアレを。
実は「PS3が勝てない理由」みたいなエントリを書いててもうアップするだけだったんだけど、そこへ来て大きなトピックが飛び込んできた。なんでも、SCEA広報がこんなことを言ったそうな。

SCEAのハードウェアマーケティング担当者 John Koller氏が Ars Technicaに答えたのは:

後方互換について騒ぐのはもうやめるべきですか?

Koller :「(PS2互換は) もう復活しない。ここではっきりさせてほしい」「(PS2互換は) いわれているほど購入理由として大きなものではない。PS3には相当のラインナップが揃ってきたし、ほとんどの人はPS3ゲームのためにPS3を買っている。PS3ゲームとBlu-ray映画のために。」「 互換性は今後も戻ってこない」。

ソニー:PS3にPS2互換は復活しません。将来も。

なるほどなるほど。互換が今後出るかどうかに関係なく、この広報の発言は現時点のベストでしょう。互換待ちの買い控え層に期待と言う名の幻想を抱かせるのは、SCEにとって損でしかありませんから。もう絶対互換しないよと言い切って諦めてもらい、さっさと薄型PS2を買ってもらった方が利益になるってもんです。

ちょっと皆さん無茶言いすぎじゃないすか

ほいでね。上のエントリのコメント欄やブコメの反応を見たらこれがまた、すんごいの。互換付けろ付けろの大合唱。
いやね、俺もね、互換付いてくれるならそれは嬉しいよ。当たり前じゃないそんなの。でもさぁ。君ら、互換付いたPS3が出れば、SCEが大喜びするような顧客になれるわけ?
私にはそこがどーーーーしても疑問なんです。そもそも、今回のテコ入れの狙いは「最適化によるコストダウン」と「値下げによる新規顧客開拓」にあるはずです。で、まだまだ逆鞘が出てるらしいぞなんてウワサもちらほら出てくる状況ながら、3万を切る価格を打ち出してきた。BDプレーヤ単体でも3万くらいはするのに、29980円でどうですかって、これはどう考えても素直にすごいでしょう。実際この29980円ってのはかなりのインパクトを持つようで、かなりの数の人々が、3万切った!これは買う!と言っている様子。恐らく数字もついてくる。次世代機のウワサがまだ聞こえてこないうちになんとか、まともに買ってもらえる値段にまで落とし込むことができたということ。これはSCEにとって非常に大きな前進となるでしょう。
で、当たり前の話で恐縮なんですけど。みなさん、タダで互換が付くと思ってらっしゃらないですよね?ソフトエミュレーションであればファームウェアの更新だけで互換が搭載される訳ですから、まぁ見かけ上では無償で互換が付くように見えます。が、当然、本当に無償なわけがない。そのコストはどこかへ跳ね返っているワケです。そして、一番跳ね返る部分というのがズバリ本体価格であるのは言わずもがな。だって今さら周辺機器を値上げする訳にもいかないし、サードパーティーからテラ銭巻き上げる訳にもいかないでしょう。
SCEは今回のテコ入れにおいて、「PS2互換」よりも「効果的な値下げ」を選んだんです。この二つは必ずトレードオフなのです。

PS2互換はSCEに利益をもたらさない

『(PS2互換は) いわれているほど購入理由として大きなものではない』というのは、事実だろうと思います。正確には、大きなものでは"なくなった"と言うべきでしょう。前世代のゲーム機の需要が時間の経過につれて減ってゆくというのは当たり前の話です。今や、聞こえてくる声の大きさと実際の需要は釣り合っていないとしても不思議はありません。そして、それ以上にはっきりとした「PS2互換がSCEに利益をもたらさない」理由があります。それは、中古市場との競合です。

PS2互換の搭載によってやっと購入する層というのは、つまり現在のPS3に魅力を感じていない層ということになるでしょう。PS3の目指すところはあくまでPS3ソフトを買ってもらうことです。PS2ソフトを買ってもらうことではありません。今後もどんどん新作PS2ソフトは減ってゆくでしょうから*1、ユーザがお金を落とす先は中古市場ということになります。
PS2ソフトを欲しがるユーザから得られる利益はどんどん減ってゆく。その中でなんとか利益を得ようとすれば、やはりオンラインでのダウンロード販売PS2アーカイブス」という手になるでしょう。しかし、これが成功することはありえません。
現在の中古市場の中心がPS2ソフトであることは、互換搭載を望む叫びが多いことからも明らかですね。すると当然、SCEは中古市場と競争せざるを得ない訳ですが、そう一筋縄ではいきません。PSアーカイブスではかなり思い切った低価格で提供することにより一定の成功を収めていますが、PS2ソフトでその手は使えないんです。というか、そもそもSCEは中古市場に勝ってはならないのです。
中古市場に勝つということはすなわち小売店を潰すということと同義であり、結果的に自らの流通チャネルを失い市場の縮小を招くという、最悪の事態に陥ってしまいます。しかし、中古市場に勝つことができなければ利益は上がらないのですから、早い話がPS2互換は赤字にしかならないということになりますね。
ここまででわかっていただけましたか?『PS2の互換が載ればPS3買うから早くしろ』と叫んでいるあなたは、もはやSCEに正しい利益をもたらす"客"ではないのですよ。

PS3ソフトを買ってもらうために

こう思った人もいることでしょう。「いやいや、PS3買えばPS3のソフトも買うよ俺。互換付けばPS3買うんだから、ほらちゃんと儲かるじゃん」
これは、半分正解です。PS3が普及すればPS3のソフトを買ってもらえて利益が上がる。おおよそ正解でしょう。但し、それはPS3のソフトに魅力があればの話ですよね。現状、PS3のソフトに魅力がないのは自明です。だって、ほんとに魅力があれば『PS2互換が付けば買う』なんて言われないでしょ。
さっきも言いましたけど、「PS2互換が付いたら買う」層は本質的に「PS3に魅力を感じていない層」なんです。そしてSCEは、「PS3に魅力を感じてもらえない」、その事にこそ危機感を抱いているはずです。
実際問題、360が1年先に発売したアドバンテージを埋められず、未だにシェアは追いつけない。ソフトは360とのマルチプラットフォームタイトルばかりになってしまい、独占タイトルでキラーソフトも生まれない。そして何より、任天堂の予想外の成功により、ゲーム市場そのものが大きく変化してしまった。PS3の展開における失策もその市場の変化を後押ししてしまい、もはや新規顧客層の開拓は難しい。この状況で勝つために今SCEが目指しているのは、360ユーザを奪い取ること。すなわちPS3に魅力を持たせるということ、360に対する競争力を持たせるということに他なりません。…念のためですが、日本の話じゃないですよ。日本市場なんかもうどうでもいいんです。PS3は世界で勝たなきゃいけないんです。
そのための2本の柱が、広報さんの言っている『PS3ゲームとBlu-ray映画』なのでしょう。360ユーザを奪い取れるだけの魅力ある独占タイトル群と、BD普及によるSONYグループ全体としての利益回収。この2本の柱によってなんとかこの世代を戦い抜き、次の世代まで繋げたいのです。
そして、次の世代でこそ、天下を取る。SCEは今、そのために動いているのです。

で、誰が悪いかっつーと…

納得して貰えるかどうかはわかりませんが、私は「PS3PS2互換は載らない」に賭けます。
互換載せてくれよ派の人にはなかなかキツい物言いをしてしまいましたが、でも、別にあなたが悪いと言ってるのではないのです。こういった状況になってしまったのは別に客のせいではなく、多くの部分はSCEの失策だと思います。任天堂にかき乱された部分やなんかもありますけど、やっぱりSCEはもう一手ずつ先に手を打てていればこうはならなかった。互換は最初から完璧にできたかもしれないし、値段だってこんなに高いものにしなくてよかったかもしれないし、コントローラは最初から震えてくれりゃよかったし…言い出せばきりがないほど。
でもこういった状況の中、もう互換を諦めるという選択は仕方のないことで、むしろ最善手であると思います。過去の失策を責められるのは仕方ないにせよ、今後の処置選択について必要以上に責められるべきではないでしょう。
そして。少しでもこの混乱した業界を支えたいと思うのなら、PS3でも360でもWiiでもPS2でもどれでもいいから買って、みんなで一緒に楽しくゲームしませんか。どんなときでも、業界の人全てが望んでいるのは「みんなが楽しくゲームで遊んでくれること」、ただそれだけですよ、きっと。

*1:PS2互換によって」PS3の販売台数が増えれば、PS3PS2の同発タイトルはなくなるというのは言うまでもありませんよね。